現在日本では、外国人労働者の受け入れにおいて様々な面で制度の見直しが進められています。

 

特に「技能実習」制度と「特定技能」制度の見直しにおいては、2022年から有識者会議が何度も開かれ、議論が進んでいます。

 

そして今回(2024年3月15日)、「技能実習」制度の廃止および「育成就労」制度の新設における法案が閣議決定されました。

 

そこで本記事では、新たに新設される「育成就労」制度について、現行の「技能実習」制度との違いや、現行の「特定技能」制度との関係について解説をしていきます。

「育成就労」制度とは?

出典:厚生労働省「改正法の概要(育成就労制度の創設等)」

 

2024年3月15日に新設の法案が閣議決定された「育成就労」制度は、現行の「技能実習」制度に代わる新たな外国人労働者の雇用制度で、2027年までの施行を目指しています。

 

以下では、各現行制度との違いや今後の関係について解説していきます。

現行の「技能実習」制度は廃止

育成就労制度の新設に伴い、現行の外国人技能実習制度1号〜3号は廃止となることが決定しました。

 

そもそも、技能実習制度は「国際貢献」および「人材育成」を目的とする制度で、「人材確保」を目的とする制度ではありません。

 

しかし、実態は企業の労働力確保を目的とされており、原則的に転籍(転職)ができない仕組みとなっていることからも、企業による人権侵害などの問題が山積しています。

 

これらの現状を踏まえ、実態に即した制度への変更および人権問題の解決を目的として、新しく育成就労制度の新設が決定されました。

 

なお、育成就労制度の目的については、「人材育成」および「人材確保」を目的とする制度であることが明言されました。

本人の意向による転籍(転職)が可能に

育成就労制度では、「やむを得ない事情がある場合」の転籍に加えて、就労期間が1年を超えているなどの条件を満たしていれば、本人の意向による転籍も認められるようになる見込みです。

 

その場合の日本語・技能の能力をどこまで求めるかなど、細かい論点については未確定の部分が多いですが、これにより人権問題の解決が進むことが期待できます。

 

一方で、受け入れる企業から見ると、十分に教育を行ったあとに転籍されてしまう可能性がある点はデメリットと言えるかもしれません。

 

特に、より高い給与や利便性を求め、地方の企業から都市部の企業への転籍が増える可能性があります。

「特定技能」制度との関係

育成就労制度は、育成期間(原則通算3年)を経て現行の特定技能1号への移行を目指す制度です。

 

そのため、外国人労働者が従事できる仕事の産業分野および業務区分(仕事の内容)においては、移行先の制度である特定技能制度の対象分野に限定されます。

 

以上から、今後は特定技能制度を中心として外国人労働者の雇用制度が整備されていくことが予想されます。

必要な日本語能力について

育成就労制度は、前提として特定技能制度への移行を目指すものであるため、以下のように日本語能力の要件があります。

 

就労前:日本語能力試験N5等合格または相当講習の受講

特定技能1号に移行する場合:日本語能力試験N4等合格

特定技能2号に移行する場合:日本語能力試験N3等合格

 

特定技能へ移行する場合は、これに加えて技能検定や特定技能評価試験の合格も必要になる想定で、細かい詳細はこれから決められていきます。

「育成就労」制度への移行の注意点

 

前述のとおり、現行の技能実習制度は「人材育成」および「人材確保」を目的とする育成就労制度へと移行されますが、移行において重要な注意点があります。

外国人労働者の受け入れができなくなる可能性

現行の技能実習制度では、「どんな仕事をするのか」という職種および作業の観点で外国人労働者の受け入れが可能でした。

 

しかし、新設される育成就労制度では、現行の特定技能制度に準じた産業分野および業務区分で判断されるため、企業によってはこれまで通りに外国人労働者の受け入れができなくなる可能性があります。

 

例えば、スーパーのお惣菜コーナー(バックヤード)における食品の製造加工業務などは現行の技能実習制度で受け入れ可能ですが、スーパーは小売産業であり、新設の育成就労および特定技能制度では現時点で対象分野となっておらず、受け入れができません。

 

そのため、技能実習制度から育成就労制度に移行できない問題が発生する可能性があり、新制度の施行開始以降(2025年〜2027年の予定)は特に注意が必要です。

受け入れできない産業分野への対応策

育成就労という新しい制度への移行が原因で外国人労働者を雇用できなくなるのは本末転倒にもなりかねません。

 

そこで日本政府は、この対応策として、特定技能および育成就労制度における産業分野・業務区分の対象拡大を同時に進めています。

 

2024年3月29日には、「自動車運送業」、「鉄道」、「林業」、「木材産業」の4つの分野を新たに特定技能制度の対象に追加することを決定しました。

 

また、「工業製品製造業」、「造船・舶用工業」、「飲食料品製造業」の3つの既存の分野に新たな業務を追加することも決定し、今後はスーパーの惣菜等の製造加工業務も可能とするよう改正を進める予定と発表しています。(これまでの「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業」分野は名称を変更し、「工業製品製造業」分野に統一されます)

 

これが実現すれば、前述のスーパーにおける技能実習制度から育成就労制度への移行の課題は解決されるでしょう。

 

今後、より多くの産業分野および業務区分で外国人労働者の活用が検討されることが予想されるため、しっかりと政府の動きを把握しておくことが重要です。

まとめ

この記事では、2024年4月時点における育成就労制度と技能実習制度の改正について、最新情報をお伝えしました。

 

以下、記事でお伝えした重要なポイントをまとめます。

 

・育成就労制度は、現行の技能実習制度に代わる新たな外国人労働者の雇用制度である

 

・現行の外国人技能実習制度1号〜3号は廃止となる

 

・育成就労制度は、育成期間(原則通算3年)を経て現行の特定技能1号への移行を目指す制度である

 

・育成就労制度の目的は「人材育成」および「人材確保」であり、2025年〜2027年にかけて施行される予定

 

・育成就労制度では、就労期間が1年を超えているなどの条件を満たしていれば本人の意向による転籍も認められる

 

・育成就労制度では、現行の特定技能制度に準じた産業分野および業務区分で就労が可能

 

・現行の技能実習制度では、職種および作業の観点で外国人労働者の受け入れを可能としているため、産業分野によってはこれまで通りに外国人を雇用できなく

なる可能性がある

 

・「自動車運送業」、「鉄道」、「林業」、「木材産業」の4つの分野が新たに特定技能制度の対象に追加

 

・「工業製品製造業」、「造船・舶用工業」、「飲食料品製造業」の3つの既存分野において新たな対象業務を追加

 

以上が、重要なポイントです。

 

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